兼好法師の言葉にあるようにわが国の住宅は「夏を以ってよしとす」と夏の対策を大切に作られてきました。
近頃は機密性の高い断熱性のいい冬向きの住宅が多くなっていますが、私が子供のころに住んでいたうちはやはり夏向きにできた和風の家でした。夏になると襖を取り払って建具を夏向きの「簀戸(すど)」に替え、畳の上には敷きござを敷きました。住まいも「衣替え」をするのが毎年の習いだったのです。夏の夜は蚊帳を吊ってみんなで寝たのですが、白地で裾から水色がぼかしになっている八畳用の大きな蚊帳でした。朝になるとこの大きな蚊帳をたたむのは私の役目でした。角と角を合わせながらたたむのは子供には大変な力が要ることでしたが、蚊帳の吊り手がぶつかってチーンチーンと澄んだ音を立てました。大人になってからは畳が無いうちに住むようになって、久しく忘れていた夏の思い出です。
三井記念美術館で開催されている「NIPPONの夏」を観て、豊かだった日本人の季節感を思い出したのですが、今では暑ければ電化製品で簡単に室温を調節するようになって便利で快適に暮らせるようにはなったのですが、その分肌で感じる季節感がなくなってしまいました。
昔の人は掛け軸に季節感を表すのは勿論、日常使う座布団の柄にも食器の柄にも季節を表現しました。

夏にデパートに行くと冷房はありませんから、天井で扇風機が回り花の入った氷柱が立っていました。その氷の中の花が珍しかったのと、冷たさがうれしくて長いこと立ち去りがたかったのを思い出すのです。